国際ジャーナリスト&旅行ジャーナリスト 大川原 明

世界各国、日本各地を周り、多くの場所を写真、動画撮影等で取材

03月

緊迫のウクライナ情勢『親露派が牛耳る未承認の独立国家「沿ドニエストル共和国」』2.親露派が牛耳る未承認の独立国家「ドニエストル共和国」


ドニエストル共和国と聞いて殆どの方が聞いた事がないだろう。ドニエストル共和国は旧ソ連のモルドバから分離独立を図った未承認の独立国家である。

著者は数年前にモルドバのキシニョウからバスを使いドニエストル共和国の首都のキシニョウに潜入。現地調査と写真、映像双方による撮影をした。

ドニエストル共和国が出来る背景

旧ソ解体と共に、モルダビアはモルドバと国名変更し、主権宣言がおこなわれ、モルドバは1991年8月27日に独立。その前年、1990年にドニエストル川左岸のロシア語系住民が「沿ドニエストル・ソビエト社会主義共和国」を宣言。同年9月2日には、「沿ドニエストル共和国」として独立を宣言。

1992年、トランスニストリア戦争勃発。7月、和平協定が締結され、ロシア、モルドバ、沿ドニエストル合同の平和維持軍によって停戦監視が行われている。

ドニエストル共和国は国際的にはモルドバの一部とみなされているが、モルドバの実行統治が及んでおらず、事実上独立状態にある。

2006年の占拠では、ロシアへの編入希望賛成多数とのことでしたが、選挙に不正があったとして、ヘルシンキ人権委員会が報告。ロシアによるクリミア併合後、ドニエストル共和国内では再びロシアへの編入が叫ばれている。

【ドニエストル共和国概要】

人口:475000人(2015年統計)

面積: 4,163平方キロメートル(徳島県や石川県と同程度)

首都:ティラスポリ

人口密度:114.2人/平方キロメートル

民族:モルドバ系31.9%、ウクライナ系28.8%、ロシア系30.4%

政治体制:共和制

元首:大統領

公用語:ロシア語、モルドバ語、ウクライナ語

通貨:ドニエストルルーブル

国民総生産(GDP):約10万ドル

工業:鉄鋼、セメント、繊維

【経済】

ドニエストル共和国ではシェリフ・グループと呼ばれる企業グループがスーパーやガソリンスタンド、携帯電話会社などを経営しており、同国内において大きな影響力を持っている。

国際的に殆ど承認されていない未承認の独立国家であるが、貿易は約80カ国との間で行われている。ロシアは天然ガスを実質無償で供給し、病院・学校の整備や年金支給を通じても支援しているのが実情である。

ソ連時代からドニエストル川沿いに重化学工業が発展しており、現在でも鉄鋼、繊維、セメントの工業が盛んである。欧州最貧国部類のモルドバ本国と比べて経済的には豊かである。モルドバで消費される電力の約8割がドニエストルで発電されている。すなわち、モルドバとしてはドニエストル共和国側が電力供給をおこなわねば危機に扮するのである。

【政治】

政治体制は共和制、大統領制を敷き、元首は大統領。大統領は国民による選挙で選出されている。旧ソ解体、モルドバからの分離独立後にロシアのカムチャツカ出身のイーゴリ・スミルノフ大統領による統治が1911年~2011年まで20年間続いた。

独裁体制を敷くベラルーシのルカシェンコ大統領とは違い、大統領は議会や共和国内で力を持つ企業シェリフ・グループやロシアの意向があり独裁体制ではない。

2011年には選挙による政権交代がおこなわれ、20年大統領を務めたスミルノフ大統領が敗北。ソ連の名残が色濃く残る国であるが2代目大統領となったシェフチュクは自由化を推し進めている。

欧州(NATO)やアメリカ寄りのモルドバに対し、ドニエストル共和国はロシア寄りである。旧ソ連軍の備蓄した膨大な量の武器を保有しており、ロシア軍は2000人程駐留している。

ロシアがウクライナに侵攻する場合に、四方から侵攻する可能性がある。

北はベラルーシに駐留するロシア軍、東はウクライナ国境地帯や親露派に占領されているルガンスクやドネツクの東部州、南は黒海に駐留するロシア海軍、そして西はドニエストル共和国からウクライナの四方をロシア軍が囲んでいる状態である。

【外交】

国際的に未承認の国家のために国連加盟をしておらず、事実上の独立状態にあるにも関わらず他国から国家承認されていない。旧ソ連内には親露派が牛耳る未承認の独立国家があるが、それらの国々アブハジア共和国、南オセチア共和国、沿ドニエストル共和国の3か国の大統領が、2006年6月に会談を行い、共同体の設立を宣言した。日本と国交のあるモルドバ共和国が認めない未承認国家であるので、当然日本との取引もなく、日本の公務員が公用パスポートでいく事はモルドバとの関係上出来ない。

【ドニエストル共和国への行き方】

モルドバの首都のキシニョウから1時間に1本以上でており、所用時間2時間前後(距離でいうと60キロほど)費用37レウ(240円程)。

著者が訪れた時、日本人はおろか、アジア人は自分だけ。ドニエストル共和国側に入る際のモルドバ側の出国審査はなし(モルドバはドニエストル共和国の独立を認めていない)、ドニエストル共和国に入る前に、審査がある。バスから降りて、事務所に行き、パスポートを提出。

以前は、用紙に記入する必要があったのだが、今は記入の必要はなくなり、口頭での質問に答える感じである。審査官はあまり英語が話せず、ロシア語で話しかけてくる。

日帰りと伝えたのだが、3日間の滞在許可をもらう事が出来た。スタンプはパスポートに押されず、証明書を渡される。

※下記が証明書

※日本と国交のあるモルドバ共和国の統治が及ばない

渡航に際して留意しなければならない点は、ドニエストル共和国は国家未承認で日本との外交関係は無しなので、日本大使館、外務省の効力が及ばないとい点。すなわち、何か問題が起きた場合、日本政府が動けないという点。(正確にのべれば、親露派の国でロシアが援助している国なので、ロシアに助力を願えばだが)

ロシア系住民が多く住み、親露派のドニエストル共和国の首都のティラポリスには、ロシアの国旗がいたるところに掲げられている。ロシアとの親密さをうかがう事が出来る。

ロシアの傀儡国家ともいえるが、国際的に承認されていない未承認国家。(モルドバの統治が及ばず事実上の独立状態)将来的にロシアに編入される可能性が高いと思われる。ウクライナがロシアに侵攻する場合、ここに駐留しているロシア兵が動く可能性も高い。

下記はティラスポリのバスターミナル鉄道駅。バスターミナルが横にある。モルドバのキシニョウからバスで来る場合はここに到着する。

モルドバとの境界線は基本的にドニエストル川で、ドニエストル川東岸はドニエストル共和国の実効支配地域。(場所により西岸もドニエストル共和国領になっている。)

首都のティラポリ。ドニエストル川西岸で海水浴ならぬ川遊びをするドニエストルの人々

ティラスポリ市内の自動車を見ていると日本車が多い事に気づいた。目視での日本車市場占有率は4割程。

ティラスポリ市内の見所としてはドニエストル川、複数のロシア正教教会、旧ソの匂いを感じさせる数多くある銅像。トランスニストリア戦争時に使用された戦車。旧ソを称え、戦争時の様子が良くわかる歴史博物館など。見所は中心地に集中しているので徒歩で周れる。

下記はロシア正教会の教会。綺麗で外観が可愛らしい教会である。

共産社会主義国は広場などに銅像を建てることが多いが、旧ソ連時代の名残が色濃く残るドニエストル共和国内にも数多くの銅像がある。

ソ連時代製造で1992年にモルドバとのトランスニストリア戦争で使用された戦車も置かれている。トランスニストリア戦争はドニエストル共和国とモルドバ共和国の間で、1992年の5月2日から7月21日にかけて発生した武力衝突である。ドニエストル共和国側にはロシアやウクライナ。モルドバ側にはルーマニアがつき2か月半に及ぶ戦争がおこなわれた。

1992年5月2日にモルドバは国連に加盟し国際的な承認を得た後、ルーマニアの支援を受け、ドゥベサリなどドニエストル川の東岸の12kmに及ぶ3箇所でドニエストル共和国側攻めたのがトランスリストニア戦争のはじまりである。

モルドバ側は、ベンデルなど西岸の町への軍事行動もおこない、市街戦が展開され民間人に多くの犠牲者が出た。最終的にロシアの支援を受けたドニエストル共和国側の勝利に終わった。

7月21日にロシアのエリツィン大統領とモルドバのミルチャ・スネグルの間で休戦協定が交わされる。エリツィンの主導で、ロシア、モルドバ、ドニエストル合同の3か国からなる平和維持軍によって休戦が維持される事となった。

モルドバはこれらの経緯もあり、反露感情の強い国であり、EUやNATO加盟をウクライナと同じく希望している国である。

市内にある歴史博物館展示されているのは主にトランスニストリア戦争関連物館内にはレーニンの銅像が置かれているがソ連の匂いを感じとることが出来る。博物館員の女性は親切に色々と案内してくれる。

トランスリストニア戦争から早30年が経過するが、モルドバはトランスリストニアを国家承認しておらず、未だに対立関係にある。トランスリストニアは国際的に未承認であるが事実上、モルドバ政府の管轄が及ばず、モルドバから分離独立の状態にある。ロシアへの編入をトランスリストニア側は求めているが、ウクライナ情勢と共に注視していく必要がある。

ティラスポリ市内にはカジノがある。ルーレット、ポーカー、ブラックジャックのテーブル、スロットマシーンの台が置かれているが、ディーラーは当然の如く英語ではなくロシア語を話す。

世界にはドニエストル共和国のような未承認の独立国家が少なからず存在する。今後のメルマガではそういった未承認の独立国家なども皆様に紹介していければと思っています。